延長
作成日:2018.09.23
タグ: 短編
村のはずれに川がある。
いや、これは正確ではないかもしれない。
というのも水が一定の方向に流れているのは確かなのだが、向こう岸がないように思われるからである。
もっと言うと、その向こう岸から来た人どころかそれを見た人もいないのだ。
ある時、ふと思い立って川沿いを散歩することにした。
川沿いには木や草花の類を含めて何もない。
だから視覚的に楽しめるわけではないが、頭を空っぽにするのにはちょうど良い。
最近気持ちが沈むような出来事が多かったので、その気持ちを紛らわせたかったのだ。
どれくらい歩いただろうか。遠くに橋が見えてきた。
初めは目を疑った。どこまで行っても変わらないと思われた景色が変化したからだ。
しかし近づくにつれ、橋は確かにあるということが分かってきた。
しばらくして橋のそばまでやって来た。
せっかくだから渡ってみようと思った矢先、誰も向こう岸から来た人がいないことを思い出して少し躊躇した。
しかし結局は、誰も見たことのないであろう向こう岸を見てみたいという好奇心が勝った。
どれくらい歩いただろうか。遠くに陸地が見えてきた。
向こう岸なのだろうか。
そう思いながら歩みを進めていくと、それが間違っていることが分かった。
四方が川に囲まれている中州だったのだ。
どうやら宿場町になっているようだ。
向こうの方にも橋がかかっているのが見えるが、橋がどこまで続いているかはよく分からない。
まだ先は長そうである。
中州の町を歩いていると、一つだけ周りから浮いている建物を見つけた。
よく見てみるとカラオケ店のようだ。
気分転換にはちょうどいいので、歌っていくことにした。
ルルルルルルル
もう時間か。少し物足りない気がするから延長するか。
カチャ
あと10分ほどで
人生終了のお時間となりますが
どうされますか
えーっと、さんじゅっ......?!
30年の延長ですね
承りました
カチャ
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